連載 DX × ITガバナンス| 第4回 DX推進の鍵となる「デジタルガバナンス」とは何か?|横浜市|コンサルティング
連載:DX推進・成功への鍵
第4回 DX推進の鍵となる「デジタルガバナンス」とは何か?
前回は「DX推進の成功ポイント」について、「経営者の覚悟と人材の育成が鍵を握る」と紹介しました。では、DX推進の実行にあたって、何が必要なのでしょうか?
今回は、DX推進で鍵となる「デジタルガバナンス」について解説します。
目次
- 「DX推進ガイドライン」とは?「改正情報処理促進法」と「DX推進企業認定制度」
- DX推進企業認定制度がもたらすもの
- 「デジタルガバナンス・コード」とは?
- 「デジタルガバナンス」への取り組み事例
- 「デジタルガバナンス」への取り組みがDX成功への鍵となる
- まとめ
1. 「改正情報処理促進法」と「DX推進企業認定制度」
デジタルガバナンスが注目されている背景には、「情報処理の促進に関する法律の一部を改正する法律(改正情報処理促進法)」の施行と、「DX推進企業認定制度」の実施があります。
改正情報処理促進法は、「企業変革や社会基盤の整備など、AIやIoTなどのデジタル技術を用いて”Society 5.0″の実現に向けた必要な施策を行う」ことを目的に、2020年5月15日に施行されました。
また、法案の制定により、経済産業省は独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が連携して、DX推進企業認定制度を開始すると発表しました。
この制度は、「ビジネスモデルの抜本的な改革など、デジタルガバナンスによってDXの推進を進める企業を認定する」というものです。
IPAが認定事業者となり、経済産業省と連携しながら企業の認定申請の受付や審査結果を連絡します。
2. DX推進企業認定制度がもたらすもの
DX推進企業認定制度により、DXに取り組む企業は以下の4つに分類されることになります。
DX-Excellent企業選定
関係者に対してDX推進の情報開示を積極的に行っており、DX推進実行力とデジタル活用で優れた実績を持つ企業(認定事業者が前提となる)。
DX注目(DX-Emerging)企業選定
関係者に対してDX推進の情報開示を積極的に行っており、DXの推進で将来性が期待できる企業(認定事業者が前提となる)。
認定事業者(DX-Ready)
DX推進に必要な指針や体制が整っている企業。
DX-Ready以前
DX推進に必要な体制の整備を行っているが、まだ認定基準に満たしていない企業。
認定企業は、「DXの推進を積極的に行っている企業」と国からお墨付きを得ることになります。これにより、株価や融資などの資金調達面置いて、大きな影響を及ぼす可能性があります。
3. 「デジタルガバナンス・コード」とは?
経済産業省は2020年1月に「Society5.0時代のデジタル・ガバナンス検討会」を立ち上げました。これは、「改正情報処理促進法」の施行にあたり、企業のデジタルガバナンスのあり方の検討を目的とするものです。そして、その取り組みの1つとして検討を進めているのが「デジタルガバナンス・コード」です。
経済産業省は「デジタルガバマンス・コード」の検討案として、以下の4つを発表しました。
・経営ビジョン・ビジネスモデル
・戦略
・成果と重要な成果指標
・ガバナンスシステム
それぞれ基盤となる考え方と認定基準の概要を解説します。
経営ビジョン・ビジネスモデル
基盤となる考え方は以下の通りです。
「企業はデジタルディスラプションによる自社への影響を考慮した新たな経営ビジョンとビジネスモデルを構築し、関係者に開示する」
そして、認定基準は以下の通りです。
「企業はデジタルディスラプションによる自社への影響を考慮した経営ビジョンとビジネスモデルを構築し、関係者に開示している」
戦略
基盤となる考え方は以下の通りです。
「企業は構築したビジネスモデルを実現するためのデジタル戦略を策定し、その結果を関係者に開示する」
そして、認定基準は以下の通りです。
「企業は自社で策定したデジタル戦略を関係者に開示している」
また、戦略の一環として、同報告書では、組織面、人材面、システム環境整備についても、基盤となる考え方と認定基準を提示しています。それぞれの基盤となる考え方と認定基準の概要は以下の通りです。
組織づくり・人材に関する方策
基盤となる考え方は以下の通りです。
「企業は戦略の実行に向けた必要な体制を構築し、組織のあり方や運営方針を関係者に開示する」
そして、認定基準は以下の通りです。
「企業は、自ら策定したデジタル戦略の実行に必要な体制を関係者に開示している」
ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策
基盤となる考え方は以下の通りです。
「企業は戦略実行に必要なITシステムの構築に向けた投資計画、プロジェクト、利用技術など関係者に開示する」
そして、認定基準は以下の通りです。
「企業は戦略実行に必要なITシステムの構築に向けた投資計画、プロジェクト、利用技術など関係者に提示している」
成果と重要な成果指標
基盤となる考え方は以下の通りです。
「企業は、自社のデジタル戦略を評価する指標を定め、関係者に指標に基づいた成果と自己評価を公表する」
そして、認定基準は以下の通りです。
「企業はデジタル戦略を評価する指標と、評価結果を関係者に公表している」
ガバナンスシステム
基盤となる考え方は以下の通りです。
「経営者は戦略実行にあたり、ステークホルダーへの情報発信を含めたリーダーシップを発揮する。また、経営者が自らデジタル戦略に関する自社の課題を把握し、戦略の見直しを行う。取締役会はこれらの実行に向け、経営者のこれらの取り組みを監督する」
そして、認定基準は以下の通りです。
「経営者が自らデジタル戦略に関する課題を把握し、関係者に提示している」
4.「デジタルガバナンス」への取り組み事例
デジタルガバナンスの取り組みとして、ANAホールディングス株式会社(以下、ANA)、SOMPOホールディングス株式会社(以下、SOMPOホールディングス)の事例を紹介します。
ANAは、ITシステムの刷新とイノベーションの創出を目的としたイノベーション戦略機能を2018年より経営企画部門に設け、DXを推進しています。また、組織変革を通じて、「SimpleでSmartな空港の実現」、「顧客向けデジタルサービスプラットフォームの整備」、「ANA AVATAR VISION」という3つの施策を行っています。こうしたANAの取り組みに対し、2019年に経済産業省と東京証券取引所はANAを「DXグランプリ」に選出しました。
SOMPOホールディングスはデジタルディスラプションに対する強い危機感から「保険商品の開発・販売の会社からの脱却」と「安心・安全・健康のテーマパーク」を目指して企業変革を進めています。その取り組みの1つが「コールセンターへのAIの活用」です。コールセンターのオペレーターは、問い合わせに対する回答をFAQ(よくある質問と回答)データベースで調べている間、電話を保留します。しかし、保留時間が長いと顧客は不満を抱くようになります。このFAQ の検索をAIが行うことで、オペレーターは素早く顧客に回答できるようになり、保留時間の10%削減を実現しました。
5.「デジタルガバナンス」への取り組みがDX成功への鍵となる
デジタルガバナンス・コードが表す通り、デジタルガバナンスとは「デジタルディスラプションによる環境の変化を認識し、それに対応する経営ビジョン、ビジネスモデル、戦略を策定し、戦略の実行に向けた組織、体制、ルール、評価の仕組みを整え、指針を持って実行すること」です。それは、DX推進に対する企業全体での取り組みに他なりません。
そして、デジタルガバナンスを基盤としたDX推進が、DX-Ready として変革し、「2025年の崖」を克服できるかどうかの鍵を握っています。
「2025年の崖」を乗り越えるためにも、今こそデジタルガバナンスを基盤としたDX推進の検討が必要です。
6. まとめ
今回は「デジタルガバナンス」について解説しましたが、いかがでしたか?
2020年5月に施行された「改正情報処理促進法」により、経済産業省とIPAが連携して「DX推進企業認定制度」が実施される予定です。
そして、経済産業省が2020年5月に中間報告としてとりまとめたものが「デジタルガバナンス・コード」です。これは、経営ビジョン・ビジネスモデル、戦略、成果と重要な成果指標、ガバナンスシステムの4つの観点から提示した、DXを推進する上での基盤となっています。また、DX推進企業認定制度の認定基準の考え方も示しています。
現在は、コロナ禍の真っ只中にあります。また、コロナ禍がデジタル化の波を加速するきっかけとなっています。その一例が「テレワーク」です。テレワークは企業の働き方やオフィスのあり方を変えるきっかけとなりました。そして、テレワークはデジタル技術の基盤があるからこそ、可能となった働き方です。
では「ポストコロナ」の未来とはどのようなものでしょうか?最終回となる次回は、今までの内容を振り返りながら、「”ポストコロナ”がもたらすDXの世界」について解説します。
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