連載 DX × ITガバナンス| 第5回 「ポストコロナ」がもたらすDXの世界

連載 DX × ITガバナンス

第3回 「ポストコロナ」がもたらすDXの世界


 DX(デジタルトランスフォーメーション)の紹介も、今回が最終回となります。

 新型コロナウイルス感染拡大は、今も収束の兆しがみられません。その一方で、新型コロナウイルス感染拡大は、ビジネス環境に、そして消費者の行動に大きな変化をもたらし、DXを加速させる結果となりました。

 今回は“「ポストコロナ」がもたらすDXの世界”と題して、コロナ禍がもたらしたビジネス環境の変化と、コロナ後に予想されるデジタル技術の活用について紹介します。


目次

  1. コロナ禍がもたらした変化
  2. コロナ禍がもたらしたDX推進への影響
  3. コロナ後には更にDXが加速する
  4. DXの成否が企業生き残りのカギ
  5. まとめ

1. コロナ禍がもたらした変化

 現在も収束が見えない新型コロナウイルスの感染。2020年2月に発生したダイヤモンドプリンセス号での感染をきっかけに全国に拡大。5月には政府により緊急事態宣言が行われました。

 特に新型コロナウイルス拡大による緊急事態宣言は、日本企業、そして日本人の行動に大きな変化ともたらしました。その最大の行動の変化は「3密(密閉、密集、密接)を避ける」ではないでしょうか?

 では、コロナ禍はビジネスに、そして私たちの行動にどのような変化をもたらしたのでしょうか?下記の4つを紹介します。

変わる働き方

 新型コロナウイルス感染拡大前の一般的な企業の働き方といえば、「オフィスで社員が働く」ではないでしょうか?また、「会議も関係者が会議室に集まって行う」のが一般的でした。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、従業員を守るために、3密を避ける行動が求められるようになりました。これにより、大企業やIT企業を中心に導入されたのが「リモートワーク」です。

 テレワークを行うには、自宅をはじめとしたリモートからのアクセス、オンライン会議、セキュリティ対策など、デジタル基盤の整備が必要です。このため、これらのデジタル基盤が整備されていない企業は突貫工事でデジタル環境整備を行い、リモートワークの運用を始めた企業も多いようです。また、リモートワークを導入したくても、IT環境の整備が追いついていないために従来の働き方を継続している企業もあります。

 一方、リモートワークを導入した企業では、メリットを感じている経営者も多いようです。その一つが「経費削減」です。リモートワークの導入企業の多くは通勤手当の支給を廃止し、実費清算に切り替えました。また、リモートワークで社員が集まる必要がなくなったため、オフィス移転でオフィス費用の削減に成功した企業もあります。

ビジネススタイルの変化

 新型コロナウイルス感染拡大によって変わったのは働き方だけではありません。ビジネススタイルも変化しています。その1つが「商談の進め方」です。

 新型コロナウイルス感染拡大前は、「顧客先に訪問し、顧客と対面で商談を進める」のが一般的でした。しかし、新型コロナウイルス拡大に伴い、顧客と対面で商談を進めることができなくなりました。そこで登場したのが「オンライン商談」です。

 オンライン商談は、ビデオ会議システムを利用して顧客とオンライン上でミーティングを行い、商談を進めるビジネススタイルです。以前は「ビジネスマナーに反する」と思われていたオンライン商談ですが、新型コロナウイルス感染拡大を契機にオンライン上で商談を進めるビジネススタイルが増加しています。

 また、商談のみならず、展示会や企業イベントなどもオンライン上で開催するケースが多くなっています。オンライン展示会のメリットは、「現地に行かなくても参加できる」点にあります。例えば、地方の企業が東京で開催する展示会に参加しようとすると、東京まで行かなければなりませんでした。しかし、オンライン展示会では、地方の企業は現地にいたままで参加することが可能になります。

 オンライン商談やオンライン展示会の開催は、デジタル基盤が整備されるからこそ実現可能となります。コロナ禍を契機に、オンライン商談やオンライン展示会を実現するためのデジタル基盤の整備を行う企業が増えていくものと思われます。

消費者の行動変化

 新型コロナウイルス感染拡大は消費者の行動にも影響しました。その一つが「巣ごもり需要」です。

 総務省が2020年7月に発表した「家計消費状況調査(2020年5月分)」によると、ネットショッピング利用世帯の割合が50.5%と、初めて5割を超えました。これは緊急事態宣言が発令されたことが大きく影響し、ネットショッピングの利用者が増えたためです。新型コロナウイルス感染拡大が収まらない現状において、今後もネットショッピングの利用が増えるものと予想されます。

 また、接触時間の短縮や現金への接触を減らすために、キャッシュレス決済を利用する消費者が増えています。

 このため、BtoC企業では、今後もネットショッピングのサービス充実やキャッシュレス決済への対応が一層求められると予想されます。

2. コロナ禍がもたらしたDX推進への影響

 株式会社INDUSTRIAL-Xが2020年6月に発表した「企業のDX実現に向けた課題とコロナ前後の意向に関する調査」によると、14%の経営者や管理職が「ビジネスがコロナ禍前に戻らない」と回答しています。

 「DX推進上の重要事項」の調査結果を見ると、以下の項目がコロナ禍前に比べてポイントが上昇しています。

  • 社員や顧客の健康配慮:59% → 63%(+4)
  • データセキュリティ対策:59% → 62%(+3)
  • 進め方やアプローチ方向が明確:53% → 58%(+5)
  • 予算の確保ができている:56% → 57%(+1)
  • 具体的なソリューションが明確:53% → 56%(+3)
  • 推進・導入人員の充足:51% → 52%(+)

 特に「進め方やアプローチ方向が明確」や「社員や顧客の健康配慮」のポイントが上昇しており、コロナ禍や在宅勤務による健康配慮やDXを推進するための具体的な進め方が明確になったことが伺えます。

 また、新たな検討事項でも以下の事項が上位を占めています。

  • リモートでDXを推進できる仕組み:37%
  • 各拠点の仕事現場の様子をオンラインで一括管理把握できる仕組み:32%
  • オンラインで情報収集・提案から導入手配まで完結できる仕組み:24%

 これらの結果を見ると、リモートやオンラインで完結できる仕組みを新たに検討していることが分かります。

3. コロナ後には更にDXが加速する

 新型コロナ感染拡大で、働き方、ビジネススタイル、消費者行動が変化する中、DXが一層加速しています。そして、コロナ後もDXは拡大する可能性が高いと考えられています。それは、デジタル技術の一層の活用が進むとみられているからです。そのカギを握るデジタル技術が「AI」と「5G」です。それぞれ、どのように活用されることが考えられるのかを以下に解説します。

AI

 AIの活用で期待されているのが「ビッグデータの解析」です。

 顧客がどのようなサービスを求めているかを把握することが、ビジネスの成否を握っています。それを推測するために活用されているのが「AIを活用したビッグデータの解析」です。特にコロナ禍で働き方や消費者行動が変わる中、AIを活用してビッグデータを解析することでいち早く消費者の行動を知り、顧客が求めるサービスを提供することが必要です。

5G

 もう一つ鍵を握るデジタル技術が「5G」です。日本では2020年3月からキャリア4社が5G(第5世代移動体通信システム)サービスを開始しました。

 5Gの通信速度は4Gの20倍、遅延は4Gの1/10、端末接続台数は4Gの10倍です。このため、5Gによって以下のことができるようになると言われています。

  • VRを利用した仮想空間:バーチャルイベント、ゲーム、医療などで活用
  • スマートオフィス:VRを利用した会議など、オフィス以外でもオフィスと同じ環境で働くことができる
  • スマートショップ:ネットワークカメラを店舗内に設置することで、顔認証や人流解析を行い、マーケティングを高度化できる

 これにより、ビジネス環境が一層変化すると考えられます。

4. DXの成否が企業生き残りのカギ

 日本経済新聞社が2020年8月に発表した「設備投資動向調査」によると、企業の2020年度のIT投資計画額が前年度の投資実績に比べて15.8%増加する見通しです。これは、コロナ禍で企業全体の設備投資額が1.2%減る中で、突出した伸び率となっています。このことからも、企業はDX推進を加速していることが分かります。

 また、将来は「2025年の崖」が待ち受けています。これは、「各企業がDXに取り組み、2025年の崖を乗り越えないと、2025年から2030年にかけて年間最大12兆円の経済損失が発生する」というものです。このため、DXへの取り組みが遅れれば遅れるほど、企業を取り巻く環境は年々厳しくなることが予想されます。

 コロナ禍でビジネスを取り巻く環境が変化し、IT投資が加速している中、DXの成否が企業生き残りのカギとなっています。DXの推進は経営者が取り組むべき「待ったなしの経営課題」なのです。

5. まとめ

 今回は“「ポストコロナ」がもたらすDXの世界”と題して、コロナ禍がもたらしたビジネス環境の変化と、コロナ後に予想されるデジタル技術の活用について紹介しましたが、いかがでしたか?

 新型コロナウイルスの感染拡大により、人々は「3密を避ける」行動を取るようになりました。その結果、「働き方の変化」、「ビジネススタイルの変化」、「消費者行動の変化」をもたらしました。そして、これらの変化に伴い、企業のIT投資計画額が増加しています。また、コロナ後も「AI」、「5G」の活用により、DXが加速するものと予想されます。

 環境の変化、IT投資の加速、新しいデジタル技術の活用など、DXの成否が企業生き残りのカギとなっています。

 自社の将来を見据えてDXを推進するにあたり、このシリーズの記事が参考になれば幸いです。

 


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